AIによる情報マスキングは、文書などから保護したい情報を見つけ、削除や置換などで見え方を変える処理です。重要なのは、情報を『検出する工程』と『置き換える工程』を分けることです。置換が正しく動いても、検出で見逃した情報は残ります。
AIと規則をどこに使うか
電話番号や会員番号のように形式が決まった情報は、文字の並びの規則で検出する方法があります。人名や組織名など、周辺の文脈によって意味が変わる情報には、言語モデルなどを使う方法も考えられます。どちらか一方に統一する必要はありません。
情報検出・変換のOSSであるPresidioの資料も、自動検出ではすべての機微情報の発見を保証できず、追加の保護が必要だと説明しています。本稿は特定ツールの導入手順ではなく、検出から確認までの設計を扱います。
例えば『高橋』が人名か、文書中の別の語の一部かは文脈で変わります。また、一般的な個人情報検出で、独自の案件コードや社内だけで意味を持つ製品名まで検出されるとは限りません。保護対象を自社の文書から定義する必要があります。
検出した場所を何に置き換えるか
置換の方法は、後で何をしたいかから選びます。以下は説明用に作成した架空の文書の例です。
『担当者Aは架空商事の案件Xについて、担当者Bへ連絡した』という文に対し、人名だけを一律に『担当者』へ変えると、誰が誰へ連絡したかが分かりにくくなります。同一人物を同じ記号へ置換すれば関係を残せますが、元との対応表の保護が別に必要です。
| 置換方法 | 利用場面の例 | 残る課題 |
|---|---|---|
| 削除・黒塗り | 情報そのものを不要にする | 文意や構造が欠ける場合がある |
| 種類名に置換 | 『氏名』『会社名』として読む | 複数の対象を区別できない |
| 一貫した記号へ置換 | 人物A、人物Bの関係を読む | 対応表や周辺情報からの推測を検討する |
| 一部だけ伏せる | 照合の補助に使う | 残った情報の識別可能性を検討する |
マスキング後も、日時・部署・出来事の組合せから対象を推測できることがあります。名前が消えたという一点だけで匿名性や公開可能性を判断しません。
文書全体で検出漏れを調べる
本文だけを処理すると、表、脚注、コメント、画像内の文字、添付ファイル名などが対象外になる場合があります。利用する仕組みが何を読み取るのかを先に把握し、対象外の領域を別に扱います。PDFや画像では、見た目を覆っただけなのか、元の文字やデータも除去されたのかを区別します。
評価用には、保護対象の正解を人が付けた文書を用意します。表記揺れ、略称、全角半角、複数行、社内コードなど、実際に使う文書の特徴を含めます。処理結果を正解と比較し、残った情報を見逃し、不要な置換を過剰検出として分けます。
検出精度と利用可能性を別々に見る
説明用に、保護すべき箇所が100個あり90個を検出したなら、残り10個は見逃しです。一方、検出した120個のうち90個だけが対象なら、30個は不要な検出です。これらの数値は仮例で、どちらも『精度90%』の一言では表せません。
見逃しを減らすために広く伏せると、業務で必要な条件まで消える場合があります。処理後の文書で要約や分類を行うなら、その仕事ができるかも確認します。許容できる水準は、外部公開、社内共有、検証利用など用途別に決めます。
元データを送る前に処理場所を確認する
外部AIへマスキングを依頼する場合、処理前の情報をそのサービスへ送ることになります。『後で伏せるから送信してよい』とは判断せず、利用できる環境、保存や学習への利用条件、アクセス範囲を確認します。対応表や処理ログに元の情報が残る場合も管理対象です。
最初は一種類の文書と用途に絞り、検出、置換、見逃し確認、利用確認を分けて試してください。社内AI活用の事業相談については、当社のお問い合わせ案内を確認できます。